プロジェクト提案書

プロジェクトの題名:

化学物質に関するテーラーメード・リスクコミュニケーションツールの提供

プロジェクトの概要:

一般の市民を対象に、各個人が抱いている化学物質に対する不安感が、どのような問題に対しての、どの程度のものなのかを共通の尺度で評価し、座標軸上に位置付け、それぞれのステップに応じた情報提供ツールを使ってweb上で情報を入手することによって、人々のリスクリテラシーの向上を図る。

開発の目的:

本プロジェクトの到達目標を「人々が筋の通った判断が出来る状態になる」に置く。すなわち、本RCツールを提供した結果として、全ての人々が、必ずしも「現状の化学物質の管理状態が安心できる状態にある」と判断するのではなく、「管理が杜撰で安心できる状態では無い」と判断されても仕方が無い。それよりは寧ろ、マスコミの間違った報道に振り回され、感情的に只反対を唱えるだけの状況が無くなれば良しとする。そのために、本プロジェクトでは人々のリスクリテラシーの向上に寄与するためのツールを提供する。

構成する技術要素:

 ・化学への関心を喚起する化学ゲームの開発

 ・化学品安全オントロジーに基づく情報提供システムの構築

 ・化学品リスク管理オントロジーに基づく情報提供システムの構築

 ・化学品管理に関する討論のための電子公共空間の提供

 ・人々が抱くそれぞれの不安を共通尺度で位置付ける手法の開発

<RCの階層>

RCには下図の如き階層が存在し、それぞれの階層からその上位の階層へステップアップするために、それぞれに適したRCツールを提供する。

以下それぞれのツールに関して具体的に記述する。

1)関心喚起の段階

この段階は化学物質の安全性に関して全く関心を持って居ない人々に対して情報を提供し、少なからず関心を持って貰うことを目的としている。それ故、ゲーム的要素を取り入れ、ゲームを通して化学物質を知り、化学物質の取り扱い方を間違えれば危険な状態になり、健康に悪い影響を与える結果になることを理解させる。

2)基礎的な知識欲求に応える段階

この階層の人は化学物質についてある程度の関心は持っているが必ずしも十分な知識を持っているとは言えない人々であり、この層に対してある程度の知識を提供するものである。すまわち、化学物質の名称や種類、有害性や危険性を表す用語などを解説した用語集のデータベースを、オントロジー(検索ツリー)的に結び付け、自由に検索できる状態にしたシステムを提供し、人々に検索操作を通して化学物質の管理に関しての問題意識を持ってもらう

3)問題解決のための知識欲求に応える段階

この階層の人は化学物質の管理についての問題意識は持っているが、問題を解決する手段や、手段の選択について必ずしも十分な知識を持っているとは言えない。それ故、前段と同様な検索ツールを提供することよって問題解決についての自己の意見を持って貰える状態にまでステップアップするが、その内容としては、リスクアセスメントやリスクマネージメントに関する用語の解説が主となる。なお、同時に、専門家のメンタルモデルとしてリスクアセスメントツールを提供し、種々のシミュレーションを通してリスクマネージメントを体験して貰う。

4)討論の段階

化学物質の管理についての十分なる知識を持ち、且つ、その管理の改善に対して自分なりの意見を持っている人に積極的に討論に参加して貰う。この討論会はweb上で公開され、専門家と一般参加者とが対峙して、間をファシリテーターが取り持つ形式を採る。具体的には一般の参加者から提案されたテーマについて専門家が討論を行い、一般参加者はその経緯を見守る。ただし、途中でファシリテーターからの促しにより一般参加者から質問や意見を挟むことができる。

<対象とするハザードの項目>

本プロジェクトが対象として取り上げるハザード項目は、単にヒト健康影響や環境影響に留まらず、爆発危険性をも含める。特に爆発危険性では、避難誘導のためのRCには、危険が身近に迫っている時点であり、高度な内容を含まなくても意思疎通は図れるが、問題は寧ろ事象が沈静化した後が大切であり、RCの拙さから、風評被害など予想外の被害が生じたり、長い期間尾を引く場合がある。本プロジェクトにおいては、この様な事後の対策についてのRCのあり方を検討する。さらに、原子力安全についても本プロジェクトの対象に含めて検討することが望ましい。

<各人の不安を共通尺度で測る手法>

本プロジェクトのもう一つの特徴はテーラーメードに情報提供がなされることである。すなわち、人々が何に対して不安を抱いているかは個々バラバラであり、しかもその不安の程度も異なる。しかしながら、その不安が形成されてゆく過程はある種の共通性を持っており、ある種の共通事象の体験から派生し、マスコミなどからの情報によって醸成されている。この様な根源や影響を及ぼす機関からの情報をキーとして評価尺度を形成すれば、個々バラバラの不安を共通項で括ることが可能となる。

この共通尺度で評価された結果を上記RCの各階層に位置付け、それぞれの階層におけるツールを選択すれば、テーラーメードのRCが可能となる。

研究の背景及び動向:

我々は過去10年以上の歳月をかけて化学物質のリスク管理のための情報を入手するリスクアセスメントシステムを構築してきた。また、化学物質リスク管理研究所においては、PRTRのデータを基にそれぞれの化学物質のリスク評価を現在でも行っている。一方、経産省においては、「化学物質管理促進法」の施行を契機に、「安全から安心」を合言葉にリスクコミュニケーションの普及に努力している。しかしながら、これら全ての施策が送り手側の論理に基づいているため一般の人々の関心は低く、必ずしも安心な社会に向かって動き出しているとは言い難い現状にある。

人々が抱く不安は、本来個々別々なものであり、しかも社会情勢によって常に変化している。しかもこの不安は、本人が納得する情報が、納得する手段を通して、必要とする時期に齎されない限り拭い去ることは出来ない。この、個人の不安にスポットを当て、きめ細かく対応しようとした研究が、最近、「安全のための社会技術に関する研究ミッションプログラム」の下で特定研究課題「原子力安全システムの総合技術」の研究成果として報告されている。

この研究が原子力施設に対する周辺住民の不安に対応する、謂わば限定されたテーマに対してのRCなのに対し、本プロジェクトは、それを不特定多数の対象の、不特定多数のテーマに拡張し、新たなシステムとして構築しようとするものである。

プロジェクト完了後の効果:

残留農薬や食品添加剤などの食品安全に関する問題、ダイオキシンやアスベストなど環境汚染からヒトの健康に影響を及ぼす問題などが大きな社会問題となっており、「……になる恐れがある」や「ゼロリスク」、「予防原則」などの言葉が飛び交っている。これらは一般市民の化学リスクリテラシーの低さに由来しており、リスクリテラシーの向上を最優先にすべきである。本プロジェクトの完成によって、これらの社会問題の沈静化に対して一翼を担えるのではないかと考える。

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