「危機は2020年より前に到来」(日経エコロジー2008年1月号)

気候変動より深刻な資源枯渇

米インタラクティブ・ラーニング研究所所長

デニス・メドウズ

1972年に出版され、大きな反響をよんだ『成長の限界』。地下資源や食料、水などの制約から経済成長には限界があると説いた。著者の一人であるデニス・メドウズ氏に35年経った今日の状況をどう見るか聞いた。

−−『成長の限界』を上梓した当時に予想したことと今日の状況を比べ、最も違っていることは何ですか?

メドウズ 72年当時、危機が表面化するのは直感的に2020年ごろだろうと考えていました。しかし、現在、気候変動問題をはじめ、食料や水の問題など、いくつかの問題で既にその深刻さが顕在化しています。2020年よりずっと早く危機が訪れる恐れが高まっています。

−−日本政府は「2050年までに全世界の温暖化ガスの排出量を半減する」との目標を表明しました。

メドウズ 2050年では全く間に合いません。今回のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書には、ここ2年の最新の調査・研究データは報告の対象になっていません。だが、こうした最近のデータにはより深刻な事態を示すものが増えています。気候変動問題は、今から対策を打って大幅にCO2排出を減らしても、もう手遅れだろうとの悲観論も強まっています。仮に気候変動問題がなんとか解決しても、先進諸国の人々が今の生活習慣を続ける限り、また別の環境問題が深刻化していくでしょう。
 そもそも化石燃料の消費量だけを考えれば、資源枯渇により2050年には今の半分以下になるはずです。ここ数年、気候変動が環境問題で最大の焦点になっていますが、実は温暖化よりも資源枯渇の方が先に深刻化します。我々のシナリオでは、最初に経済成長の制約要因になるのは食料でした。そして、現在既に1人当りの食料生産量はピークを過ぎたとの見方もあります。

−−なぜ、ここまで破局が近づきながら、多くの人々は危機意識に乏しいのでしょうか?

メドウズ ビジネスの世界に身を置いているほとんどの人は、環境問題を真剣に考える暇はなく、短期的な思考になりがちです。いまある資源はこれからもあり、右肩上がりの成長は永遠に続くと思えてしまうのです。日本や米国のように快適な都市空間に身を置いていると、本来の自然環境の変化を感じ取れないことも危機感を薄れさせます。ある調査によると、米国の子供たちは洗剤の名前は8つも挙げられますが、木の名前は1つしか言えないそうです。

−−日本の現状をどう見ますか?

メドウズ 米国など他の先進諸国と比べると、日本は打つべき省エネ対策のほとんどを実行しています。人々の意識も高まっています。資源枯渇を指摘する講演会を開くと、そもそもロシアでは人が集まらず、米国では参加者はいますが、枯渇論への反論が相次ぎます。日本では同じ危機感を共有しつつ議論できます。

−−「持続可能な発展」という言葉をよく耳にしますが、資源枯渇により成長に限界が見えるなかで、それは達成可能でしょうか?

メドウズ 「成長に限界がある」という時の「成長」は、エネルギー消費や物質的な拡大を意味します。米国の心理学者、マズローの欲求段階説では、こうした物質的な欲求は人の欲望の中では低い段階のものです。そして、産業のほとんどはこの低い段階の欲求に応えることで、利益を挙げてきました。一方、心の安寧や自己実現など、より高い段階の欲求ではエネルギー消費や物質的な拡大を伴いません。産業がこうした欲求に応え、ビジネスにできれば、「成長の限界」のなかで、社会や企業は発展し続けられるはずです。

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