大綱見直しで対策強化は必至環境省は税導入に不退転の決意(日経エコロジー2004年8月号)

温暖化ガス排出量の6%削減に向け、地球温暖化対策の第2ステップを迎える来年度に合わせ各省が追加対策の取りまとめを急いでいる。省庁間で手法の違いはあるが、省エネ対策の強化は必至だ。

 現行の温暖化対策の限界を象徴的に示す資料がある。2004年6月に資源エネルギー庁が暫定版としてまとめた「運輸部門のエネルギー消費動向について」だ。

 日本自動車工業会の資料によると、1990年度と比較して2001年度の販売車の加重平均燃費は約13%改善している。これは、省エネ法のトップランナー方式に基づく2010年度燃費規準と、これを達成するための自動車メーカーによる技術開発が大きく貢献したもの。いわば現行対策の成果といえる。

 ところが全体で見ると、2001年度の自家用乗用車からの二酸化炭素(CO2)排出量(原油換算値)は、90年度比で約52%増加してしまった。最大の要因は保有台数の増加。絶対数が増えたので燃費改善の効果も吹き飛んだ。

 保有台数の増加は車だけの問題ではない。エアコンやテレビなどの家電、パソコンなどのOA機器にも共通だ。絶対数が増える状況では、個別機器の省エネ性能の向上だけでは温暖化ガスの排出量は増えてしまう。

 5月18日、小泉首相を本部長とする地球温暖化対策推進本部の会議で2002年度の温暖化ガス排出量は133100万t。これは90年比で7.6%増に当たる。産業部門は微減だったが、運輸部門が20.4%、業務その他部門が36.7%、家庭部門が28.8%とそれぞれ増加したためだ。会議後に小池環境大臣は「大胆な追加対策が不可欠」とコメントしている。

 政府の温暖化対策は、同本部が策定した「地球温暖化対策推進大綱」に基づいて進められる。その大綱は今年度中に大幅に見直され、温暖化対策は来年度から第2ステップに入る。「大胆な対策」を新大綱に盛り込むために、関係省庁は審議会などで追加対策の議論を進め、その骨格がほぼ明らかになってきた。

 経済産業省は現行の対策をさらに強化するという姿勢だ。

 経産省はこれまでの議論で、現行の対策を着実に実施しても、2010年度のエネルギー起源CO排出量は90年度比5%増加する見通しを明らかにした。大綱は目指すエネルギー起源CO排出量は90年度比±0%を維持することだが、達成が困難になっていることを公式に認めた。

 特に、民生・運輸部門では大幅な排出量増加が見込まれる。そのため、今回の見直しでは、民生・運輸部門を中心に追加対策を組んだ。

 経産省の追加対策は、省エネ技術の向上・拡大を中心に据えている。この追加対策で、必要削減量の5割を削減する方針だ。具体的には、トップランナー方式の対象拡大や規準強化などで家電や車の省エネ性能の向上を促す。ただ、こうした対策を民生・運輸部門で実施しても削減量が足りず、産業部門の削減目標も7%から9%に積み増ししている。

 残りの5割の削減分の追加対策として大きいのが、エネルギー供給側である電力分野のCO排出原単位の改善と、新エネルギー技術の普及推進だ。特にCO排出原単位の改善には、現在建設が進む原子力発電所4基の運転開始と、既存の原発の稼働率向上を前提としたうえで、さらに発電事業者による京都メカニズムの活用も視野に入れている。

 経産省は、追加対策はあくまで各主体の自主努力で実行し、経済活動の抑制や生活水準の引き下げ、国際競争力に影響する規制的手法は採るべきでない、という態度を公式の場では繰り返し表明している。しかし、これは環境省をけん制する意味合いもあるようだ。非公式な場では、今回の追加対策でも目標達成が難しい場合、「石油危機の時のような強制的な規制も選択肢として考えざるを得ない」という発言も聞かれる。

 一方、環境省の追加対策はより大胆なものといえる。環境省の松本省蔵地球環境審議官は「追加対策の柱として環境税の来年度導入を目指す」と明言する。このため、夏には財務省に対して税改正を要望し、年末の税制改正の政策に盛り込みたいという。ただ、この日程は現時点では不透明だ。

 環境大臣の諮問機関である中央環境審議会の施策総合企画小委員会では、環境税に関する審議が進んでいる。委員会では、排出権取引と組み合わせた柔軟な税制がテーマに上がっているが、「議論はいまだに入り口の段階」(委員を務める佐和隆光京都大学経済研究所長の第7回会合での発言)。産業界を代表する委員から反対も根強い。

 委員長の森嶌昭夫・地球環境戦略研究機関理事長も第7回会合で「環境省の描く日程は尊重するが、誰も歓迎しない税がテーマである以上、十分に議論を尽くす。あくまでも来年度の導入を目指すならば、委員会とは別に環境省の責任で進めていただきたい」と発言し、環境省の考えとは一線を画している。

 環境省は、当然ながら経産省の方針とも相容れない。

 温暖化ガス削減が進まないなかで見直しが求められる新大綱は、各省庁の追加対策を単純にホチキス留めしたものでは済まされないと、NGOなどから指摘されている。しかし、経産省と環境省の対立を考えると、そのホチキス留めすらままならないのが現状だ。大胆な追加対策には省庁の枠組を越えたリーダーシップが必要だが、今のところ、それはどこを探しても見つからない。

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