“かっこいいが”が新しいキーワード(日経エコロジー2006年1月号)

コストから付加価値へ、発想を転換

エコ商品は「かっこいい」に代表される新たな付加価値を創造し始めた。消費者意識と変化を後押しに、価値志向のビジネスが立ち上がる。

 

エコ商品は、環境負荷を低減するために手間や時間をかけたり、新技術を投入することが必要になる。これは宿命だ。価格志向のビジネスだとこれがコストになって競争力を奪う。例えばハイブリッド車は、低燃費でガソリン代を節約できるが、その節約分で通常のガソリン車との価格差を相殺することはかなり難しい。

ところが環境性能を新しい価値に転換できれば、価値の対価として価格に反映させることが可能になる。その価値の代表がかっこよさ。商品分野によっては「心地よさ」や「おしゃれ」「伝統」「信頼性」が価値の中心になる。

100年かかって育った木は、100年使えるモノに」、製品のロングライフを経営理念に、木製の高級家具を製造販売するオークビレッジ(岐阜県高山市)の稲本正代表は、「300万円のテーブルでも、価値に納得すれば買ってもらえる」と指摘する。同社のテーブルは数十件の予約を抱えており、見積りから納品まで3ヶ月待ちの状態だ。

こうした環境の価値を前面に打ち出した売り方が可能になったのは、環境問題への消費者の認識が深まったことが大きい。

まず、学校や企業での環境教育や研修が普及した。さらに企業は、90年代後半から、環境問題を啓蒙する内容の企業広告を次々と投入。自動車メーカーや電機メーカーに加え、石油会社や電力会社も環境問題への対応を積極的にアピールした。

広範な情報が先進的な消費者の意識を変えた。環境負荷の低減が「すべきこと」でなく、「かっこいいこと」や「おしゃれなこと」に変化した。

「我慢のエコ」から「かっこいいエコ」への転換が始まり、多くの人がその実現を目指して動き出した時、タイミングを計ったかのように米国からLOHAS(ロハス)というキーワードが上陸した。

LOHAS(Lifestyles Of Health And Sustainability)を、日本語にすると「健康で、持続可能性な多様な暮らし方」になる。持続可能性の対象が主に自然や社会、産業なので、広い意味での環境という言葉を使って「健康と環境を重視するライフスタイル」とされることも多い。

「米国のロハスは、もともとマーケティング分野の専門用語。一般の人にはあまり知られていない」と、電通・IMCプランニングセンターの並木義巳専門領域プランニング室長は説明する。ところが、日本では新しい意味が加わった。健康や環境を重視する集団を意味するロハス層が、新しいライフスタイルを象徴するロハスとして使われ始めた。この日本独自の使い方はメディアで紹介され、そこではロハスな暮らしやロハスな人、ロハスな車、ロハスな場所、あるいはロハス的というように、ロハスという言葉がおしゃれなイメージを身にまとって前面に出てくる。

マーケティングの世界で使われるロハス層と、新しいライフスタイルとしてのロハスは、健康と環境を重視するという基本では共通だが、分けて考えた方が理解しやすい。

そうみると、ロハス層の方はもともと存在していたものだが、ロハスは新たな流行といえそうだ。このため、例えば「ロハス層が増えることは歓迎だが、広告表現の中でロハスを使うつもりはない」(トヨタ宣伝部)という対応も出てくる。

ロハス層は、環境(あるいは健康)という価値に対して、納得すれば対価を払う層とも言い換えられる。もともと日本にいた人たちで、例えば、環境コンサルティングを手がけるイースクエア(東京都港区)と共同で、日米合同LOHAS消費者調査を実施している米ナチュラル・マーケティング・インスティテュート社のスティーブン・フレンチ氏は、「日本のロハス層の現状は、米国の5年か10年先を走っていると思う」と指摘している。

また、ネットマーケティングのドゥ・ハウス(東京都港区)とNPO(非営利組織)の環境リレーションズ研究所(東京都千代田区)がまとめた『エコ商品開発支援のためのデータブック』(200412月)では、エコ商品開発のためのポイントとして、「基本機能の充実や使い方が簡単、さらにはデザイン性など商品としての価値がある前提で環境視点を持ったものが受け入れられる」など、ロハス層と重なる消費者ニーズを既に指摘している。

しかし一方で、ロハス層という名前が付けられ、明確に意識されるようになった意義は大きい。「これまでエコ商品のニーズは島のように点在していたが、ロハス層という大陸を狙ったマーケティングが可能になる」(イースクエアのピーター・D・ピーダーセン社長)からだ。いわば、漠然としていたエコ商品へのニーズを、ロハス層という名前で“見える化”したといえる。

一方の新しいライフスタイルを提案するロハスについても期待する声が多い。マーケティングコンサルタントの大和田順子氏は、「1人の徹底したエコロジストよりも、できる範囲で10人が環境に気を配る方が波及効果は大きい」と指摘する。ロハスのイメージが浸透してロハス層が増えれば、社会全体の環境負荷の低減につながるという論理だ。

ただ、今後の展開に懸念する声もある。「ロハスは企業と消費者双方にメリットがあるが、エゴの優先を突き詰めると、どんなものでもロハス商品とアピールできる。結局、環境への配慮がどこかに消えてしまう恐れがある」(筑波大学大学院の西尾チヅル教授)。麗澤大学の大橋照枝教授は、「ロハス商品は十分な情報開示と消費者の選択眼が前提になるが、いまのところ環境負荷を比較する基盤が整っていない」と釘を刺す。

これまでのエコ商品やサービスは、「リサイクル素材の利用」や「生産工程での環境対策」など、供給側の視点に立ったものが多かった。消費者に価格メリットを訴求できる省エネ家電や低燃費車、詰め替え商品などもあったが分野が限られていた。

「かっこいい」に代表される環境の付加価値をエコ商品のウリにする工夫はまだ多く残されているはずだ。ロハス層へのアピールや、新しいライフスタイルとしてのロハスの売り込みも、本質的にはこの流れの中にある。環境にかっこいいという価値を見いだし始めた消費者ニーズに応えることが、エコ商品を飛躍させる条件になっている。

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