来年度本格利用に向け準備着々(日経エコロジー200610月号)

――もう厄介者とは言わせない――

放置された竹林が宅地や畑を侵食し、里山の生態系を破壊する竹害が深刻化している。厄介者扱いの竹だが、3年で成長し、独特の特性を持つ点が評価され、環境負荷の低い代替材として注目を集めている。


「竹は理論的に日本で年間150万t、世界全体で1億t程度採取できる」。同志社大学・竹の高度利用研究センター長の藤井透教授は、こう見積もる。2007年度、この膨大な植物資源の本格利用が始まる。

パナソニックエレクトロニックデバイス(大阪府門真市)は、藤井教授らと共同で、竹の繊維を利用した高音質スピーカーを開発した。来年中の量産を目指す。

スピーカーは、裏側のコイルですり鉢状の振動板を震わせて音を出す。高音から低音まで幅広い周波数帯で原音を忠実に再現するためには、振動板の素材は、軽くて強度と剛性(変形のしにくさ、硬さ)が高くなければならない。実は、竹はその全てを満たしている。竹の細胞の中に、天然のナノ繊維「バイオナノファイバー」が、詰まっているためだ。

これまで高級スピーカーは、北欧産の針葉樹などの高級木材パルプで作った紙が使われていた。だが、樹齢数十年の木を使うため、森林資源の枯渇が懸念されており、短期間で再生産できる原料が求められていた。

竹は以前から注目されていたが、竹の特性を損なわずに振動板を作ることが難しかった。今回は、水蒸気を満たした密閉容器に竹を入れ、高温高圧状態から一気に水蒸気を開放することで竹をバラバラにする「爆砕技術」によって、竹の特性を残したまま繊維を取り出すことに成功した。繊維をさらに細かくして漉き上げ、竹繊維100%の振動板が完成。業界最高水準の音質を実現した。

一方、三菱自動車は2007年度に発売予定の軽自動車の内装に竹の繊維を使用する。月産数千台規模を見込む主力車種だ。竹繊維を使うのは、後部ハッチの「テールゲートトリム」と呼ばれる部分で、PBS(ポリブチレンサクシネート)に竹繊維を50%以上配合したボードを使う。

PBSは、コハク酸とブタンジオールという成分を合成して作る。コハク酸は、トウモロコシやサトウキビから作るため、竹と合わせて80%以上が植物由来になる。テールゲートトリムは真夏に約70℃に熱せられることもある。約60℃で変形するポリ乳酸に対して、PBSの熱変形温度は約90℃と高いために採用した。ただし生分解性があるため、加水分解防止剤を添加して15年以上使用できるように改良した。

テールゲートトリムには、ポリプロピレン(PP)や、廃木材チップをフェノール樹脂で固めた「ハードボード」という素材が使われている。同社の試算では竹繊維入りPBSを使えば、材料採取から廃棄までのCO2発生量を、PPに比べて51%下げられる。

ハードボードは廃材の再利用になるが、シックハウス症候群の原因となるVOC(揮発性有機化合物)が出る。厚生労働省はVOCのうち13物質について建物の室内濃度に関する指針を設けている。自動車業界は、2007年度発売の新型車から、室内でこの指針値を満たす自主的取り組みを進める。ハードルは低くない。

技術開発本部材料技術部の寺澤勇マネージャーは、「ハードボードに比べてVOC発生量が85%以上減らせる竹のボードは、内装材にうってつけ。将来的には床や側面にも使いたい」と話す。2007年度時点では、価格は現行品の2割増し程度になるが、PBSや竹繊維の量産体制が整えば、現行品並にできる見込みだ。ハードボードは家具や住宅の内装などに広く使われているが、竹のボードもこうした幅広い用途に使える。

竹の利用範囲はまだまだ広い。同志社大学の藤井教授は、汎用プラスチックの代表格であるPPの強化材料として、竹繊維を利用する壮大な計画を進めている。国内で年間最大50tの需要が見込める。

PPに竹の繊維を50%混ぜると、物性が飛躍的に向上することがわかった。PPの使用量を半分に減らせるため、石油資源の節約と温暖化対策にもなる。2007年度中に実用化する。

具体的には竹繊維を配合することで、強度が2〜3倍、剛性は3〜4倍、断熱性は2倍に跳ね上がる。耐熱性も上がり、使用可能な温度は80℃程度から120℃態度まで広がる。

半面、純粋なPPに比べると粘りが低下してもろくなる。また、1mmを下回るような細かい凹凸がある精密部品を射出成型する際には、金型の隅々まで樹脂が行き届かなくなる恐れがある。こうした課題は、PET樹脂を1割ほど混ぜて粘りを出したり、樹脂の注入方法を工夫したりすることで、かなり克服できそうだ。

ただ、竹繊維を混ぜると素材の色が茶褐色になるため、透明性が必要ない用途や、目に付きにくい部分に使うことを想定している。国内のPPの年間消費量は約300t。藤井教授は、そのうち最大で50t程度を竹繊維に置き換えられると見る。

価格は純粋なPPより安くできる。PPは1kg当たり約150円。これに対して竹繊維の束は同100円程度。繊維の束を細かく砕くため加工費用がかかるが、それでもPP並みの値段に収まる。既存の加工技術の延長で工程を合理化できるので、竹を50%配合したPPは、純粋なPPより安くなる。強度が高いため、用途によっては、1kg当たり200円程度のABS樹脂の、安価な代替素材として普及する可能性がある。

そのほか竹繊維は、製造に大量のエネルギーを使うガラス繊維の代替として、断熱材やFRP(繊維強化プラスチック)に使える。

古くて新しい天然素材の竹。厄介者の汚名を返上する日は近い。

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