第14回研究発表会講演論文集(論文用に編集):2001.11. 日本リスク研究学会

リスクコミュニケーションの分類に関する1考察 安心のためのリスク情報伝達

伊東 隆志 化学品安心管理コンサルタント

One Consideration about the Classification of Risk Communication
          How to Release the Risk Information to Soften Worrying about Chemical Injury.

Takashi Ito  Chemical Safety Consultant

E-mailitotaksh@nifty.com

AbstractMany chemical substances are under good management, and are not in the state where a serious problem occurs at least before dozens of, except for some rear cases now. However, although the safety of a chemical substance is evaluated by the hazard data which does not contain the requirements for exposure therefore, people are made to hold a possibility whether a familiar and serious problem may occur at any moment, and people have uneasy every day. So, we have undertaken the duty to offer the exact information about the risk of a chemical substance so that it may have the right recognition about the present condition of a chemical substance, and may be given, he may feel being safe and he can pass every day.

KeywordRisk communicationChemical safety informationRisk based approach

1.はじめに
 私見かも知れないが、最近のリスクコミュニケーションに関する議論では、論議の対象があまりにも“リスクの存在を如何に受け手側に認識させるか”に傾注し過ぎている感がある。ところが、一方で、人間は本能的に危険を察知する能力を持っている。真に身辺に危険が近づいているのなら、誰に言われるまでもなく、自ら進んでその危険に対して回避行動を取るであろう。それ故、単にリスクの存在を受け手側に認識させるだけを最終の目的とするならば、敢えてリスクコミュニケーションを持ち出すまでも無く、従来から行われているハザードインフォメーションや、簡単なリスクインフォメーションで事足りる。

この様な視点から捉えて見ると、リスクコミュニケーションの目的としては、単に身辺にリスクが存在していることを受け手側に認知させるだけでなく、その結果として、相手が実際に何らかの行動を起こすように仕向けることに重点を置くべきであると考える。特に、前述のように、相手がリスクを認知すればそれに対する回避行動を起こすことが必然であるとするならば、むしろ、それによって相手が過剰な不安を抱き、性急な過度の回避行動を取らないようにすることに留意すべきであろう。そのためにこそ、その起こりうるハザードの種類や程度、その起きる可能性、それぞれが取り得る回避行動などを充分相手に理解させることが大切になると考える。すなわち、リスクコミュニケーションの目的を、「相手が過剰に反応することなく直面するリスクに対して適切に対応するように仕向けること」であると定義したい。

2.リスクコミュニケーションの3段階
 主に化学物質に関するリスクコミュニケーションにおいては、それによって何の対応行動を相手に動機づけようとするかによって、以下の3つのフェーズに分けられる。各段階におけるそれぞれの特徴は下表の通り。

各段階におけるRCの特徴

 

第T段階

第U段階

第V段階

対応の種類

緊急避難的対応

持続的回避対応

風評抗弁型対応

リスクの状況

近未来に被害が出る
被害の程度は大きい

将来被害が出る
被害の程度は小さい

将来被害が出る
被害の程度は無視出来る

受け手の認識

リスクの存在を知らない

存在は認知、切迫感が無い

リスクの存在を熟知している

RCの目的

過剰対応を抑える

回避行動を持続させる

安心させ、当面は静観

RCの阻害因子

パニック状態

喉もと過ぎれば

予防原則、ゼロリスク

RCの手法

事件の推移を逐一公開
相手の反応を見ながら

現状を持続した時の将来像対策の期待効果

議論対象項目の合意形成
優先順位を理解させる

対応事例

ILO170号条約
リスク管理プログラム

京都議定書
POPs条約

環境ホルモン
BSE

@  第Tの段階
 緊急避難的対応と名付け、現に災害や事故などの重大なハザード事象が起きており、そのハザードを回避するための当面の対応行動をとることをリスク対象者に求める場合である。特にこの場合には、相手がそれによって過度の不安に駆られ、パニック状態に陥らないように留意することが大切である。この対応におけるリスク情報提供のあり方を考慮に入れて作られたマニュアルの例としては、ボパールでの爆発事故を契機に生まれたILO170号条約(MSDSに関する条約)や175号条約(大規模災害防止条約)などがあり、最近では米国EPARMP(リスク管理プログラム)がそれに該当すると思われる。また、緊急時のリスコミュニケーションの拙さから問題が拗れた卑近な例としては、去年夏の雪印食中毒事件が挙げられる。

 この段階では、リスク対象者は未だそのハザードの存在を知らない。しかしながら、実際にはハザードは身辺に迫っており、緊急の回避行動を取らなければならないなど、切迫した事態に至っている。そのために、多くの場合、そのハザードの存在を知った途端に、相手は動揺し、所謂パニック状態に陥り、却ってリスクを増大させてしまう危険性すらある。それゆえ、この場合のリスクコミュニケーションは、相手に何らかの回避行動を起こさせると言うよりは、相手が過度の不安に駆られ、パニック状態に陥らないようにすることであり、そのためには、相手の反応を見ながら、起きるであろうハザードの内容や、取り得る回避策を一つ一つ理解させながら、少しずつ順序立てて話すことが重要となる。

A     第Uの段階
 持続的回避対応と名付け、現実には切迫した具体的事象は起きていないのだが、現状の状態をそのまま持続していれば、将来において重大なハザードの事象が起きることが懸念され、しかも、その予兆事象が既に起きている場合である。この場合、リスク対象者に問題の深刻さを理解させ、回避のための適切な対応策を講ずるように仕向けると同時に、その回避行動に対して重大な関心を持ち続けて貰うことを求めることがポイントとなる。この段階でのリスクコミュニケーションは、受け手側にハザードの存在を認識させることに重点を置いて、これまで行政を中心に強力に推し進められて来たし、実際に効果も挙っている。地球温暖化や難分解性有機物汚染の問題など、人々の生活習慣に起因する問題に対するリスクコミュニケーションのあり方の議論がこれに該当する。特に最近では、COPx(気候変動枠組条約締約国会議)やPOPs(難分解性有機汚染物質)条約など、国際的なレベルでも、実際にリスクを削減するための具体的な対策が講じられている。

 この段階では、将来起きるであろうハザードについての何らかの予兆現象は現実に存在するものの、当面そのハザードに対して緊急の回避行動を取る必要もないので、当事者間では比較的冷静な対応が出来る。すなわち、対象者は未だそのハザードの内容を十分には知らないか、あるいは知っていても実際に何らかの回避行動を起こすまでの切迫感は持っていない。それゆえ、これから起こるであろうハザードの種類やその程度、起きる可能性などについての情報を正確に伝えると同時に、現状がどのような状態にあって、その状態が持続した場合にどのようなことが起きるのかを正しく定量的に話すことが重要である。加えて、そのハザードを回避するためにいま出来得る対策にはどのようなものがあって、それぞれの対策を講じた場合には、将来、どのような改善効果が期待できるのかも併せて説明し、同意を得ておくことが大切と考える。

B     第Vの段階
 風評抗弁型対応と名付け、遠い将来何かが起きる可能性はあるが、そのリスクは小さく、当面は特別な対応策を講ずる必要は無く、事態の推移を見守っておくだけの場合である。ところが、後にも述べるが、特に化学物質の場合には、従来からその安全性がハザード評価の結果で論議されて来たがゆえに、この第V段階に該当する状態にある化学物質であっても、第U段階の状態の化学物質と同類として扱われ、その結果、人々に過度の不安を与えている。それゆえ、この段階でのリスクコミュニケーションでは、人々に注意を喚起し何らかの行動を起こさせると言うよりは、現状でのリスクレベルを正確に伝えることによって人々に安心感を与え、当面は静観するように諭すことが重要である。PCBやダイオキシンに関する議論の一部や、ビスフェノールA、ノニルフェノール、フタル酸エステルなど、所謂内分泌撹乱物質に対する議論がこれに属する。

この段階の対応が一番難しい。何故なら、一般には、人に注意を促すための情報は、人を安心させるための情報より何百倍もの威力を持っているからだ。しかも、この段階では「ゼロリスク論」や「予防原則論」が大手を振って罷り通っている。それゆえ、しっかりとした戦略の下に理論武装を強化しない限り論破できない。加えて、リスク対象者はそのリスクについては充分過ぎるほどの知識を持っており、必要以上にそのリスクを深刻に捉えている。また、多くの場合、そのリスクを回避するための具体的な行動を既に起こしており、中には“リスク回避の行動は正しい選択であり、人類としては緊急に対策を講ずる当然の義務がある”と信条的に思い込んでいる人もいるのだ。しかもリスク回避行動の問題は優先順位の問題なのだ。限られた資源を何処に重点的に投入し何をするかである。単に声高に主張されている目先の問題や、比較的容易に対策が講じられるような問題の解決に全力を投入するのではなく、冷静に全体のリスクの評価を行い、その結果、例え解決が困難であっても、敢えて、現状で最もリスクの大きい問題に対処すべきなのであって、そのことを理解させなければならない。

3.化学物質の有害性に関する人々の関心の変遷
 ここで今までに人々が抱いていた化学物質の有害性に対する関心の変遷について振り返って見よう。

化学物質の有害性に関する関心の変遷

 

皆が関心を持った項目

規制による対応

 
   1960年代
 
 
 
   1970年代
 
 
 
   1980年代
 
 
 
    1990年代
 
 
 
   2000年代

毒物による中毒
労働災害中心  劇物による火傷        工場の爆発事故多発公害の発生   水俣病
        四日市喘息
 
日常生活    発がん物質
 
 
発がん機構の解明
特殊な毒性   アレルギー性
        遺伝毒性
環境問題    オゾン層破壊
 
        地球温暖化
 
新しい毒性   環境ホルモン
        狂牛病

毒劇物取締法

労働安全衛生法
水質汚濁防止法
大気汚染防止法
 
化審法
安全衛生法による審査
 
 
 
 
オゾン層保護法
環境基本法
気候変動枠組条約
 
難分解性有機汚染低減条約
 
化学物質管理促進法

@     急性毒性に対する関心
 1960年代半ばごろから、劇薬など刺激性の強い化学物質を被ってヤケドを負うなど、化学物質による労働災害が増え始め、石油化学プラントを中心とした工場での爆発事故が相次いだ。加えて、1960年代後半からは水俣病などの公害問題が発生するなど、急激過ぎた経済成長の歪みがそこ此処で表面化し、各地で問題を起こした。多くの河川は工場廃水により汚染され、内湾では毎年赤潮が発生したのだ。ところが、当時は、人々の間では、日常の生活の中で化学物質を使っていると言う意識は薄く、化学物質の危険性に関しては、工場周辺など特定の場でしか話題にならなかった。
 これに対し行政は、消防法で危険物の取扱方法を規制し、労働安全衛生法で特に作業中の事故防止に努めることを義務付けた。さらに、毒劇法によって、特に危険性の高い毒性物質や刺激性物質には特別な取扱方法を規制するなど、精力的に対応をとった。その結果、規制を遵守していさえすれば、当面の安全は確保できる体制が確立された。

A     慢性毒性に対する関心
 1970年代後半になると高度成長が一段落し、世の中に落ち着きが戻ってきた。併せて、政府の法律による強い管理が功を奏し、労働災害や公害問題に一応の沈静化が見え、それに伴って、国民の化学物質の有害危険性についての関心事も、ガンや慢性毒性など、低濃度で長期に暴露した場合に問題となる慢性的な毒性へと変わって行った。
 特に、焼き魚の中にも発ガン物質が含まれているという噂が流れるなど、人々の日常生活の中に有害な化学物質が存在していることへの認識が高まり、化学物質の有害危険性が身近な問題として意識される様になった。しかも、「発ガン物質の存在は完全にゼロであるべき」であるとの主張が支持され、その対策としては、ゼロ志向とともに、極めて過剰な安全性が求められたのだ。

B     リスクに対する関心
 1980年代後半から1990年代前半にかけて発ガン物質に関する調査研究が進むにつれて、天然物も含めて、全ての環境中には多かれ少なかれ発ガン物質が存在しているにも拘わらず、全てのヒトがガンで死んでいる訳でもないという現実の姿が次第に明らかになった。加えて、それまでの化学物質の安全管理に関する考え方の不完全さを補うために、新たにリスク管理の考え方が導入され、「現実には目に見える程の変化は起きていないものの、将来何らかの影響が発生する可能性があるものに対しては、予め予防措置を講じて置くべきである」との主張が説得力を強めるとともに、そのための研究も推し進められた。
 さらに、化学物質の発ガン作用のメカリズムが次第に明らかになり、ガンに対する人々の恐怖心が薄らいで行くとともに、人々の関心は化学物質の発ガン性から遺伝毒性やアレルギー性など、その作用機序や化学物質との因果関係がさらに分かり難い、より複雑な有害性へと移り、化学物質の管理に関する対応の複雑さや、困難さが益々増大した。

C     地球環境問題に対する関心
 1990年代半ばにクローズアップされ始めた地球の温暖化や酸性雨被害、オゾン層の破壊などの環境破壊は、汚染地域が国境を越え、地球的規模で広がり始めた。しかも、被害者と加害者の関係が単純ではなく、加害者が同時に被害者であるという複雑な事態に陥っており、さらに問題を複雑化している。特に、ダイオキシンやビスフェノールAなどのホルモン作用を撹乱するおそれのある物質は、極めて微量でも身体のバランスを崩すとして、かつて発ガン物質に対して採ったのと同じゼロ運動が再燃し、“疑わしきは使わない”の風潮が正当性を帯びた主張として、再び息を吹き返したのだ。

以上述べてきたように、人々の関心は、急性毒性など即発性の毒性から、慢性毒性など低濃度長期暴露に伴う蓄積性の毒性、遺伝毒性など数世代後に現れる毒性へと移り、また、自分自身の身体に起こる健康障害から、子どもや身内、人間一般、生態系への影響に対する不安へと変化して行った。「最近になって化学物質がヒトや環境に与えるリスクは急速に増大し、事態は悪化している」と主張する人たちがいるが、むしろ逆で、現在は、以前に比べリスクは下がっていると見るべきであり、先に述べたリスク段階では第U段階から第V段階に移りつつあると言える。すなわち、化学物質の管理に関するリスクコミュニケーションは持続的回避対応から風評抗弁型対応に代わる時期に来ているのだ。

4.不安解消のためのリスクコミュニケーション
 第T段階の緊急回避的対応及び第U段階の持続的回避対応におけるリスクコミュニケーションのあり方については既に幾つかの提案もなされているので、別の場所で議論することとし、今回は、最後の風評抗弁型対応におけるリスクコミュニケーションのあり方について考えて見たい。
 先にも述べたが、風評抗弁型対応でのコミュニケーションの目的は、流言蜚語によって形成された人々の不安を、リスク情報を提供することによって解消または軽減することにある。それゆえ、先ず、人々が如何にして化学物質の安全性に対して不安を抱くようになり、不安を膨らませているかを考え、そのことから如何にして不安を取り除いてやるかを考えたい。

 @     不安の形成
 一般に、人々の不安は周囲からもたらされる不安情報によって次の如きステップを踏んで形成されて行く。
 すなわち、

@)ある専門家の手によってある種のリスクが存在していることが明らかにされ、そのことが学会などでの発表や、学会誌などへの投稿によって一般に公表される。

A)それを新聞などの報道機関が取り上げ、広く社会にその事実を伝える。さらに、それを見聞きしたある種の「自称科学評論家」がそのことを取り上げて自分なりの評論を加え、その事実の社会的影響を考察する。この考察の結果社会的に大きな影響を与える可能性があると見るや、多くの評論家がその論議の輪に加わり、マスコミも取り上げて、社会問題として形成されて行く。

B)その時点になると、消費者団体やNGOなどの団体が反対運動を機関決定し、キャンペーンを張って大々的に反対運動を展開し、次第に世論全体が一つの方向に向かって進み始める。この段階に入って人々は問題の存在を認識し、それらに対してある種の不安を抱くようになる。

C)消費者団体などの運動が激しくなればなるほど人々の不安は増大し、遂には政治家をも動かして、法対応などの規制で抑えることを要求し始める。行政はこの要求に応えて、必要な手続きとともに、立法や法改正などの対応策を講ずる。

D)このような動きをじっと見ていた学会などの専門家は、自分たちへの攻撃が弱まってきたことを確かめてから、漸く、実験事実などを公表し、それらのリスクは無視し得るほど小さく、当面は静観していても特段の問題は起きないことを説明し始める。それによって、一般の人々の不安も沈静化をし始めるのだ。

A    
ある事例に見られた不安扇動の手法
 ここで「自称科学評論家」たちが人々の不安を煽った事例として一つの告発本を取り上げて見たい。この本は幾つかの商品についての安全性に問題ありとした記事を1冊の単行本に纏めたもので、百万部以上が売れたと言われている。具体的には、この本では全部で89の商品が取り上げられており、それぞれに著者なりの危険性の理由を挙げているが、その内訳は、

 @)その商品を構成している化学物質に安全性の問題があるとする商品が78件

 A)誇大広告など不当な表示をしていると称する商品が7件

 B)実際の性能や効果に疑問があるとする商品が3件

 C)過剰サービスと思われる商品が1件となっていた。

 この事からも、化学物質の安全性に疑問を投げ掛けることが人々の不安を煽るのに如何に効果的かが分かる 。さらに、彼がその安全性に問題があるとした根拠には、以下の如き煽りの手法が隠されていた。

 @)大量に摂取した場合など、その商品の設計時に想定していなかった特殊な使い方で使用した場合に起き るであろう有害事象を普遍化して、商品全体の安全性に疑問があると主張しているのが20商品、

 A)やたらと多くの毒性を羅列したり、「青酸カリと同程度」など一般に人々が恐いと思っている物と比較 して極めて強い毒性があると印象付けているのが13商品、

 B)こじ付けなど、明らかに無理な論理展開をして毒性を強調しているのが9商品、

 C)一般には疑問視されているごく一部の限られた学説や数少ない試験結果を、正当な情報源として引用す ることによって有害性を主張しているのが7商品、

 D)アレルギーなどの特異体質の人が発症するなど、極めて特異的な現象を普遍化することによって有害性 を主張しているのが7商品あった。

 これらの論理展開は一般的な脅しの手法として広く用いられており、特に化学物質に限ったものではない が、この本では、さらに、化学物質の毒性に関しての特有な論理展開を用いても不安を煽っている。
  すなわち、

@)通常の使用方法で摂取するであろう摂取量の数千倍から数万倍の量を投与した場合に起きた毒性現象が、通常の使用条件下でも起きるであろうとして有害性を主張しているのが35商品、

A)動物を使った毒性試験で大量の化学物質を投与し、無理やりに発症させている試験結果を根拠に毒性を主張しているものが14商品、

B)別の毒性物質と呼び名や化学構造が似ているので同じ様な毒性があるはずだとの主張を理由としているのが13商品、

C)試験に採用した暴露経路と実際に被曝する経路とが違っているのにも拘わらず、それを無視して有害であるとの主張をしているものが13商品、

D)細菌などで起きた毒性現象が哺乳動物、特にヒトにおいても起きるなど、毒性の発現機構を無視した毒性によって有害性を主張しているのが11商品あった。

なお、ほとんどの商品では、これらの扇動手法が同一商品の中に重複して用いられていたため、それぞれの手法での発現件数の合計は、掲載された商品数の約1.5倍になった。

B     抗弁のためのリスク情報

以上の解析結果から、化学物質の安全性に関して、以下のような点が一般の人々の間では完全に理解されておらず、それらの弱点を突いて、化学物質が有害であると主張する「知識人」が多いことが判った。

すなわち、

@)化学物質の毒性は、それぞれが持っている固有の性質であって、同じ様な構造をもったグループの物質であっても物質が異なれば当然毒性の種類や強さも異なる。しかも、全ての化学物質は多かれ少なかれ、何らかの危険有害性を持っており、その化学物質が危険又は有害であるか否かは、その時の量によって決まる。

A)一般に健康への影響は、それぞれの化学物質を体内に取り込んだ量に比例して強くなる。ところが、ある量以下の摂取量では全然影響が現れない。すなわち、発症迄には閾値が存在する。

B)毒性が発現する機構は対象となる個体や、影響を与える化学物質の物理・化学特性値によって異なる。それゆえ、ある個体の死を以って、その物質が他の個体に対しても同様な死を与える可能性があると直接的に論ずることはできない。加えて、暴露の経路が異なれば当然試験の結果も異なるため、毒性を論ずる場合は同じ暴露経路同士での試験データで比較評価されなければならない。

 C)化学物質が環境中や生体内で存在する存在量は、吸収能・分解・代謝で減量され食物連鎖で増量する

 

 以上のことから、化学物質のリスクに関して人々に安心を抱かせるリスク情報を提供するためには、まずその前提条件として、上に述べた化学物質の毒性に関する4つの特長について、事前に十分理解を深めてもらう必要があり、我々化学物質のリスクを研究する者たちに対して、そのための件の努力が求められているものと考える。

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